大判例

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神戸地方裁判所 昭和25年(行)27号 判決

原告 富山多美子 外一名

被告 明石市

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等は「被告は原告富山多美子に対し一五五、〇〇〇円とこれにつき昭和二五年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員とを支払わなければならない、被告は原告夫貴由に対して金七五、〇〇〇円とこれにつき昭和二五年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員とを支払わなければならない。訴訟費用は被告の負担とする」との判決と仮執行の宣言とを求め、その請求原因として次のように述べた。

「原告富山は明石市鍜冶屋町七三地上に木造板ぶき二階建家屋一棟(延建坪一五坪)を、原告夫は同町七三の二地上に木造ジユラルミンぶき平家建家屋一棟(建坪七坪)をいずれも地主の承諾を得て昭和二一年三月には建築所有していた。ところが被告は明石市の区域内に特別都市計画法に基く都市計画を施行することとなり、昭和二四年二月頃には前記建物所在地一帯を貫通して道路を新設するべく、その地域を土地区画整理地区に編入する旨原告等に通告して来たが、さらに同年一二月になると、同月二六日附明建計第九二〇号文書を以て原告等に対し、右地域内にある前記原告所有の家屋を昭和二五年三月二十五日までに除却すること、もし原告等が任意にその除却をしないときは、被告において代執行の手段をとる旨通知して来、原告等はこの通知を同月二七日ごろ受領した。この間原告等は同様な命令を受けた附近居住者等とともにこの問題につき被告と交渉を重ねていたが、ようやく昭和二五年二月一日すぎになつて、被告は原告等に対し右家屋について換地予定地を明石市大明石町または明石川尻市有地と指定した。然し原告等としてはその指定地は営業不適地なので、その変更を求め、さらに被告と交渉を続けたが、まだ話のまとまらないでいるうち、被告は昭和二五年三月二〇日明建計第一八六号文書を以て原告等に対し代執行の戒告をなし、同年四月一七日原告等所有の前記家屋を取りこわし除却するに至つた。

然しながら被告のなした前記除却命令は次の理由によつて違法である。すなわち特別都市計画法第一五条によれば、本件のように土地区画整理施行地区内にある家屋について移転を命じる場合にはこれにつき換地予定地を指定しなければならないのに、被告はさきに述べた通り昭和二四年一二月二六日附移転命令を発したときには原告等に対して換地予定地を指定していない。その指定をしたのは、ようやく昭和二五年二月一日以降のことである。

原告等は特別都市計画法施行令(以下単に令という)第四五条但書に定める届出をしていないが、このことは、被告の換地予定地を指定しないでした除却命令を正当ならしめるものではない。すなわち、令第四五条は土地の賃借権者その他の関係人を対象とする規定であり、その土地の上に存する建物の所有権者とは直接関係のない規定である。もちろん建物の所有者が、その敷地である土地について賃借権等の権利を有し、その使用権を保全しようとするときは令第四五条但書に基いて届出をすることを要するがこれはあくまでも土地使用権者としての問題であつて、この届出をしなかつたからといつて建物所有権者として特別都市計画法上の換地交付その他の保護を受けられなくなるものではない。同法第一五条第一項の工作物所有者は、その敷地につき使用権を有すると否とを問わぬものといわねばならない。

すなわち、特別都市計画法第一五条は工作物の移転を命じる場合、その工作物所有者に対し換地予定地を指定すべきことを定めたのであつて、これは令第四五条但書の定める届出の有無を問わないのであるから、原告等はその有する権利の登記や右届出をしていないが、被告はそれだからといつて、右換地予定地指定を原告等に対してしないでよいわけはない。被告が右指定をしないままに発した本件除却命令は違法な処分である。

右のように、原告等は被告の違法な除却処分によつて、各所有の前記家屋をとりこわされた結果、原告等は右家屋の時価相当の損害を受けるに至つた。そして、原告富山所有の家屋は時価一五五、〇〇〇円、原告夫のそれは七五、〇〇〇円であるから、その原因を作つた不法行為者である被告に対し右金額の損害賠償支払を求める。」

被告は主文と同じ判決を求め、答弁として次のように述べた。

「原告等が各その主張の家屋を所有していたこと、被告が原告等主張通りの除却命令を発し、戒告手続を経て代執行の方法により、右家屋を除却とりこわしたことは認めるが、その間原告等主張のような違法はない。すなわち、昭和二一年八月一六日原告等主張の家屋所在地域を含む明石市内について特別都市計画法により都市計画決定がなされ、昭和二二年一月六日被告はその特別都市計画事業として本件家屋所在地を含む土地について行う土地区画整理につきその施行地区を告示し、昭和二三年一一月六日には右家屋敷地の所有者等に対し換地予定地指定処分を通知した。ところが昭和二四年二月二一日右土地附近に大火があり、附近の家屋多数が焼失したので、この機会に右土地一帯の土地区画整理を実行に移すことになり、原告等はじめ附近居住者に任意立退方を交渉したが、話はまとまらなかつたので、原告主張通り除却命令を発するに至つたのである。そして原告等は元来右土地について家屋を建築するについてその土地所有者の承諾を得ていない不法占有者なのだから、これに対し換地予定地の指定通知等をする必要はない。また仮に原告等が右土地につき正当な使用権を有するとしても、その権利については登記も令第四五条の届出もしていないのだから、やはり換地予定地の指定通知を受ける権利はないわけである。であるから、被告が昭和二十五年二月頃、大明石町等の立退先を提供する旨申出たのは、法律の要求する換地予定地の指定をしたのでなく、ただ好意的に立退先を提供したにすぎない。

以上のように、被告の処分にはなんら違法な点はないのみならず、昭和二五年四月一七日代執行当日原告富山は三五、七〇〇円、原告夫は二五、三〇〇円を被告から受け、無条件で本件家屋を除却移転することを承諾したのであるから、その結果の損害の賠償を被告に求めることはできない。

また原告等主張の損害額はこれを争う。」

被告の右主張に対して、原告等は次のように述べた。

「被告が、昭和二二年一月六日本件家屋所在地を含む土地につき土地区画整理施行地区の告示をしたことは認めるが、昭和二三年一一月六日右土地所有者に対して換地予定地指定処分の通知をしたということは知らない。また原告等が本件代執行当日被告から被告主張の金員を受け、被告主張のように、除却に同意する旨の意思表示をしたことは認めるが、これは被告の強迫に基く意思表示である。すなわち、当日被告は人夫、警官、消防士など数十名を動員して、本件家屋を取囲み、除却しようとし、形式上任意立退の形をとるため原告等に同意を求めたので、原告等はこれに威圧されやむなく除却に同意したのである。そして、原告等は右同意を被告の強迫による意思表示として、昭和二五年五月一七日これを取消す旨被告に通告したので、右同意ははじめから効力ないものとなつた。だから、この故を以て原告等に賠償請求権なしとすることはできない。」(立証省略)

三、理  由

特別都市計画事業として土地区画整理を行う行政庁は建築物所有者に対してその移転除却命令を発する場合には、これに対し必ず換地予定地を指定し、或はその通知をしなければならないか。その建築物所有者が、その所在土地につき登記のない使用権を有しながら、令第四五条によるその届出をしない場合にもこれを要するか。これについて当裁判所は次のように考える。

特別都市計画法第一五条によれば工作物の移転を命ずる場合には同法第一三条第一項の規定により換地予定地を指定しなければならないとあるが、それはその工作物をその敷地から切りはなし、その敷地自体に対する換地予定地指定の外にこれを独立してその工作物ないし工作物所有者に対する換地予定地指定をしなければならないとした規定ではない。もしこれを反対に解すると、その工作物の移転先とその敷地の換地予定地とは別の土地になり得るわけであり、そうすると、その工作物所有者は従前の敷地につき有していた使用権を敷地の換地予定地についても行使できながら工作物移転先の土地をも使用できることとなるか、或は、敷地所有者が従前その土地について負担していた工作物所有者に対する義務を免れて、使用権の附随しない換地予定地を受けるということになるかして、いずれにしても不合理な結果とならざるを得ない。すなわち前記第一五条の規定は、工作物の移転を命じるについては、その時において同法第一三条の規定による換地予定地の指定がその敷地土地についてなされていなければならない旨を定めたものであつて(そうでなければ移転工作物の行先がなくなつてしまうから)この換地予定地の指定ないしその通知を受くべきものの範囲は右第一三条等の規定により定まるので、同法第一五条もこれと別に、特に工作物所有者をその土地に対する権利の有無と関係なく換地予定地の指定を受けるべき資格者としたわけではない。

そうすれば、特別都市計画法第一三条により換地予定地の指定がなされる場合、従前の土地の所有権者以外の権利者でその権利につき登記のなされていない者については、令第四五条の規定する権利の届出をしない限り、換地予定地の指定を受ける相手方とする必要のないことは同法第一三条、耕地整理法第三三条、令四五条の規定から明かであり、従つてそうしたものに対しては前記第一三条第二項の規定による換地予定地指定の通知をする必要もないものといわねばならない。それは、行政庁が広範囲にわたる土地区画整理を行う場合すべての土地に対する所有権以外の権利を調査しようとしても、その登記もなされておらず、届出もされていないものについてまでもれなく調べることは不可能に近いであろう(そのような権利はすべて当事者間の合意によつて成立したもので外部から認識することは困難であるし、当事者間においてさえ権利の存在につき争があり、行政庁がその責任において確定することの期待できない場合も少くないであろう)ところから、土地区画整理を担当する行政庁においてこれらの者を換地予定地指定の相手方としなくてもよいとしたのであつて、当事者間において真に権利が存在するならば、未登記未届出の権利者といえども換地予定地をその権利内容に応じて使用することを妨げるものではなく、その権利を失うものではない。

そうすれば、本件において、被告が行う特別都市計画についての土地区画整理施行地区の告示を昭和二二年一月六日にしたことは当事者間に争がなく、原告等が仮にその主張するように、その所有家屋敷地につき正当な使用権をもつていたとしてもその権利は登記なく令第四五条の規定に基く権利の届出もされていないことは原告等の自認するところである以上、原告等は換地予定地の指定ないしその通知を受ける資格はないわけである。そうして成立に争のない乙第五、六号証の各一、二、証人松下一三の証言によつて成立を認め得る乙第七号証と証人鞍田遠、松下一三の証言とによれば、本件家屋敷地土地に対する換地予定地の指定、各土地所有者に対する通知はおそくとも昭和二三年一一月一〇日ころまでにはなされていたことが認められるのであるから、当事者間に争のない如く、その後昭和二四年一二月二六日附で被告が右土地上にある原告等所有家屋を昭和二五年三月二五日までに移転除却すべき旨命じ、昭和二五年三月二〇日文書を以て代執行の戒告をしたが、原告等において任意移転しなかつたので同年四月一七日原告において代執行の方法により右家屋を除却するに至つたというその過程には、原告等に対する換地予定地指定ないしその通知がなされていなくても、原告等が、右土地につき正当な使用権を有していたか否にかかわらず、被告の側における違法、手続違背があつたといえないことは、さきに述べたところから見て明かであるといわねばならない。

そうすれば、被告の処分が違法であることを前提とする原告等の本訴請求は、他の点について判断するまでもなく理由がないことは明かであるから、これを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 村上幸太郎)

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